不登校になって25年以上が過ぎた
俺は今、四十代で、働いていない。
中学二年の途中から学校に行かなくなった。それから、ほとんど何もしていない。
小学校までは普通だったと思う。友達も少しはいたし、運動ができないとか、話すのが苦手とか、その程度だった。家も普通だった。父親が働いて、母親が家にいて、休みの日には家族で出かけることもあった。
いつからいじめられたのか、はっきり覚えていない。
最初は、名字を変なふうに呼ばれた。次に、机を離された。俺が触った物を汚いと言われた。男子だけじゃなく、女子も笑っていた。
一番覚えているのは、教室に入ったとき、全員が急に静かになったことだ。
さっきまで話していたのに、俺が入ると黙る。それで誰かが小さな声で何か言って、みんな笑う。
何を言ったのか聞こえないときもあった。
でも俺のことだと分かった。
殴られたこともあるけど、そんなにひどくはなかった。無視されたり物を隠されたり、体操服をゴミ箱に入れられたりした。
先生は知らなかったのかもしれない。
知っていたと思うけど。
一度、担任に呼ばれて、何か困っていることはないかと聞かれた。俺は何もないと言った。
あのとき言えばよかったのかもしれない。
俺をいじめていたやつの名前は、今でも覚えている。
名字も名前も、顔も、声も覚えている。
女子の前では優しいふりをするやつ。目立ちたがり屋のお調子者、俺の筆箱を勝手に開けて、中身を窓から捨てたやつ。
俺の机に触ったあと、大げさに手を洗った女。俺と同じ班になって泣いたやつ。修学旅行で、俺と同じ写真に写りたくないと言った女。
今でも、たまに名前を検索する。
結婚している奴もいた。いい会社に勤めている奴もいた。子供と一緒に写っている写真もあった。
笑っていた。
昔と同じ顔に見えた。
たぶん向こうは俺のことなんか覚えていない。
俺が今も部屋にいて、一日中ゲームをして、親ともほとんど話さずに暮らしていることも知らない。
知らないまま、普通に働いて、結婚して、子供を育てている。
それが許せない。殺してやりたいと思うこともある。
何年かに一度じゃなく、割とよく思う。
そいつらの家に行って、家族の前で昔のことを全部言ってやりたい。お前の父親はこういう人間だった、お前の母親はこういうことをしていたと、子供に教えてやりたい。
でも実際には何もしない。
面倒になってやめる。
電車に乗ることを考えただけで嫌になる。
家を出ても、人に見られるのが怖い。
復讐したいと思いながら、その程度だ。
俺はずっと逃げてきた。
何かを始めようと思ったこともある。資格を取ろうとして本を買った。求人サイトを見た。短時間のアルバイトならできるかもしれないと思った。
でも何もしなかった。2,30代の時に何かすればよかった。あの時、何かをはじめていればよかったのかも知れない。
ずっとそんなことを考えている。
ゲームを起動して、そのまま一日が終わった。
ネトゲでは何年も話していた人がいた。でも年齢や仕事の話になると嘘をついた。
働いていると言った。
忙しいと言った。
そのうち、その人たちもいなくなった。
父親とは十年以上まともに話していない。母親は部屋の前に食事を置く。
ありがとうも言わない。
親が死んだらどうするのかと思う。
たぶん何もできない。
葬式の電話もできないと思う。
いじめてきたやつらを恨んでいる。
あいつらがいなければ、俺も普通に生きられたと思う日がある。
でも、本当は途中から自分で何もしなかった。
中学を卒業してから25年以上あった。
その全部を、俺は何もしないで潰した。
それを認めたくないから、今もあいつらを恨んでいるのかもしれない。
頭の中にいるあいつらは、まだ十四歳のままだ。
制服を着て、教室の後ろで笑っている。
でも現実のあいつらは、俺と同じ四十代になっている。
髪が薄くなったり、太ったり、子供を学校に送ったりしている。
成長していないのは俺だけだ。
俺の中では、今でも教室に入ると全員が黙る。
誰かが小さな声で何か言う。
みんなが笑う。
俺は何も言えずに席に座る。
たぶん、このままずっとそうだと思う。
復讐もできない。
許すこともできない。
忘れることもできない。
ただ毎日、あいつらの名前を覚えたまま、ゲームをして、飯を食って、寝る。
それだけで今日も終わる。
もうどうしたらいいかわからない。