離れられない夜の会話と朝の曖昧さ
ベッドに横たわりながら、隣でリコがリモコンを握っている。コロナ禍でテレビ局が過去作を流すのが続いているせいか、部屋の空気にはまだ熱が残っているように感じた。天井をぼんやり見つめていると、リコがチャンネルをいくつか変えては、ため息混じりに言った。
「見るものがなくなっちゃったね」
「仕方がないよ、今はそうだ」
その返事に、リコが振り向いて質問した。
「ところで、君の会社ってテレワークできる部署はあるの?」
私はリコの髪先に軽く触れながら答えた。
「社内はまだ紙と電卓が中心で、在宅はほぼ無理だね。部長は今でも手計算してるし」
リコは笑いながら「でも可愛いよね」
二人で笑い合う。結婚していた頃と変わらない時間が流れ、自然さが逆に怖く感じた。
しばらく沈黙が続いた後、リコがぽつりと言った。「私、転職したんだ」
「そうか」
「新入社員歓迎会みたいなのが、私のために用意されるらしいんだけど」
リモコンをいじりながら、リコは続けた。「私の許可が必要なら、行ってもいいかなって」
私は正直に、もし嫌だったら理由をつけて断るつもりだと告げた。中途採用は私だけじゃないし、とも。
その時、画面の向こうからいくつかのエロティックな体験談が流れたが、私たちはそれどころではなかった。リコはまだ私を夫として見ているのかと考えた。
「時短営業の居酒屋があるらしいよ」
「聞いてた?」
「うん、だから行ってみなよ」
笑いながら言うと、リコは私の腕に軽く噛みついた。「どうして心配しないの?」
「痛い」
「酔っ払って変な人に触られたら、君だって嫌だろ?」
私が答えに詰まると、リコは笑いながら頬を膨らませた。その姿に思わず笑ってしまい、二人で笑い合った。
その笑いの裏に、過去の裏切りがまるでなかったかのような錯覚があった。長い時間を共にしたからこそ通じ合える冗談が、離婚という現実をぼやかしていく。言葉にしなくても伝わる空気があった。
「本気で行ってきて」
少し真面目な声で言うと、リコは黙って私を見つめた。「でも、行ったら場が賑やかになるし」
考え込んだ後、リコは首を横に振った。
「やっぱり行かない」
「どうして?」
「心配させたくないから」
誰を心配しているのかと聞くと、リコは私を睨んで言った。
「さっき私にしたこと、理由は何?」
言葉に詰まり、私は必死に「触る理由を探すんじゃなく、やり方を考えろ」と言い返した。リコは眉を上げて笑い、変質者の格言でも言うかと突っ込んだ。
その後、時計の針だけが静かに進む部屋で、私はふと報告したいことがあると切り出した。「近いうちに、ゆいの実家へ挨拶に行くつもりだ」
リコの表情は凍りつき、怒りと戸惑いが混ざった声で返ってきた。「知らせないでくれって言ったでしょ」
でも、ゆいのために伝えなければならなかった。
リコは私の腕にしがみつきながら何か呟き、私が泊まれば許可してくれると言った。その提案は、まるで日陰の女性のように感じた。
「明日、一緒に通勤しよう」
その言葉に胸がざわついた。私は「ゆいの実家に行く前に、リコとの関係をはっきりさせたい」と告げた。リコは黙って立ち上がり、洗濯機の音だけが部屋に響く。
しばらくして、リコは涙をこらえながら言った。
「君が怖いと言った…」
「嘘だろ」
声が震える中、彼女は半年間の辛さや、二度と裏切らないと誓った。私の胸に重くのしかかる言葉だった。
結局、私は答えを出せずに夜が明けるのを待った。時計の針だけが二人の間を刻み、静かな朝が訪れた。
「おはよう」
アラームが鳴らないまま目が覚め、慌てて時間を確認した。リコは起き上がり、少し照れくさそうに「ごめんね、起こしちゃって」
昨晩別れを切り出したばかりなのに、素顔のリコに胸が高鳴り、自然と体が寄り添った。朝陽が差し込むベッドで、彼女は私に寄り添いながら、短く髪を切ると言った。私は「ゆっくりやって」だけ返すと、彼女はすぐにキスを求めてきた。
「君のタイミングでいいから、最後は一緒に」
息が乱れ、二人は互いに抱き合い、静かに余韻を残したまま、また新しい一日が始まるのを待っていた。
この曖昧な関係は、まだ続くのかもしれない。
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